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MUSUBU プロジェクト秘話

【MUSUBUパートナー対談企画】印伝の山本 山本裕輔氏×Knot遠藤弘満

20-12-28

[THEME1]伝統を、螺旋のように進化させていく
——印伝の職人としては日本で唯一、伝統工芸士(総合部門)の資格を持つ山本裕輔さんは、職人でありながら「印伝の山本」を三代目として継ぐ経営者でもあります。まずは甲州印伝の歴史と、伝統を継ぐうえで大事にしてきたことを教えてください。

山本裕輔(以下、山本):甲州印伝は、戦国時代に武将の鎧や兜を飾った技法に始まっています。江戸時代に入って武具の需要がなくなり、甲冑づくりの職人さんが、その技術や素材を別の製品に変えるために漆を塗ったのが甲州印伝でした。印伝に使っている鹿皮は燃えにくく丈夫なため、火消しが着る防火服やキセルを入れる旅道具、また紙入れなどに使われていたようです。明治になると、それがカバンや財布になり、時代に合わせて姿を変えてきました。

遠藤弘満(以下、遠藤):山本さんはどのようなきっかけで印伝職人になろうと思われたのですか?

山本:15歳の頃、二代目だった父が伝統工芸士を取得しまして、その盾に刻まれた「伝統工芸士」という5文字がめちゃくちゃかっこよく見えたんです。それまでも父の仕事ぶりは見ていましたが、別の職業に憧れていました。でもその盾を見て「自分はこれだ! これをもらうんだ!」と、そこから伝統工芸士を目指します。これからは伝統工芸もコンピューターの知識が必要だと思い、高校ではシステムや情報を学べる学校に行き、大学では経営を学び、卒業して弊社に入りました。高校生の頃はWindows97が流行りまして、そういうものを伝統工芸に活かせないかと考えたりもしていましたね。

遠藤:新しい形で伝統を継ぐということですよね。100年前の技法をそのまま引き継ぐのが必ずしもいいとは思いませんし、ファッションが着物から洋装に変わったように、時代とともに変わっていったほうがいいと私も思っています。

山本:これは伝統工芸に共通して言えることですが、僕が甲州印伝の伝統工芸士としては最年少であるように、伝統的な技術自体は消えてしまうのではないかという危惧も感じています。印伝は大きなメーカーもありますので商品としては残るでしょうが、お客様には多くの選択肢を提供したいし、多様性を担保しながら伝統を残していきたい。そのためにも、我々はこれまでの伝統を踏襲しつつ、少しずつアップデートをしています。私自身が仕事をするうえで大事にしているのは、伝統工芸を回転ではなく螺旋状にすること。同じところを回るだけではなく、横から見るとちょっとずつ上のほうに進んで見えるような。伝統も前に進むことが必要なのではないかと思っています。

[THEME2]Knotのストラップに託した、印伝への思いとは?
——時代とともに伝統を変化させていくという点をはじめ、共通点が多くありそうですね。今回、Knotが印伝でストラップをつくろうと思ったきっかけについて伺えたらと思います。

遠藤:Knotの製品をつくるうえで、その理念や使命を常々考えていますが、山本さんがいまお話しされたことに非常に共感しています。日本の伝統工芸と世界をつないでいこう、というポリシーでスタートした「MUSUBUプロジェクト」では、古来より続く日本の良質な技術や文化を、現代にあう形で残していけないかという思いがありました。例えば、地球の裏側で売っているメイドインジャパンのものというと、車や家電、化粧品、そして腕時計です。世界中で売られているカシオやセイコーを見て、腕時計には世界を超える力があると感じました。腕時計の素材として伝統工芸を取り入れることで日本のものづくりや、その背景にあるものを世界に伝えていくことができるのではないかなと。
私は学生時代に山梨の学校に通っていたり、以前バイヤーをしていたときに印伝に触れたりして、堅牢で耐熱性に優れた鹿皮はベルトには最適だと考えていました。MUSUBUプロジェクトがスタートした当初から印伝をぜひ扱いたいと、実はその頃に書きなぐったメモも残っているんです。また、かつては鎧兜だった技術が印伝として形を変えて今日まで残ったのは、やはりファッションや個人としての表現という意味合いも強かったのではないでしょうか。そこに、装飾品でもある腕時計に通じるものがあると思いました。

山本:私もはじめてKnotのお店にうかがったとき、うちがやってきたことに通じるものがあると思いました。Knotの腕時計は、さまざまな技術やデザインから選択して、自分だけの組み合わせをつくることができる。弊社も1点からのオーダーを承っているんです。伝統工芸でそういう取り組みはあまりないのではと思いますが、数十種類の色や模様から好きなものを選び、カスタマイズできることを売りにしていて、これまでなんとか成長してきました。そんな共通点のあるKnotと今回お仕事させてもらえること、我々の商品を注視していただいたことにまず感動しましたし、とても喜ばしい気持ちでした。

遠藤:いまKnotのお客様は男女半々で、中心の年齢は30歳くらいです。これまで印伝に触れられていない方々にも、腕時計という媒体を通じてアプローチできたら、私たちもとても嬉しいです。一人でも多くの新しいお客様に伝える役割を果たしていけたらと思います。

[THEME3]届ける相手に、正直でありたい
―両社のものづくりへのこだわりや、今後目指す方向はどのようなところにありますか。

遠藤:Knotの立ち上げ前から長く時計のビジネスに関わってきましたが、流通の性質上、中間業者が入ることで原価に対する価格があがることに矛盾を感じていました。そこでKnotではDtoC(Direct to Consumer)の考え方でブランドをつくりたいと。DtoCでは、組織のピラミッドの頂点にコンシューマーが位置します。お客様に求められる製品をつくり、直接販売するのがDtoCの概念です。今Knotには15万人くらいの会員がいますので、一人ひとりのお客様の声をすべて私一人で聞くことはできませんが、社員たちが直営店をとおして、直接お客様と対話しながらものづくりに生かすことができます。販売価格設定に関しても、積み上げではなく、まずは売価を設定して逆算し、調整する。常にお客様に正直であり、コミュニケーションをしっかりとる。それがDtoCのメーカーとして目指すものづくりです。

山本:今のお話に非常に共感する部分があって、私たちもものづくりをするうえで、誰がこの商品を求めているのかを大事にしたいと考えています。床の間に飾られるような芸術品ではなく、誰かに使われることで伝わっていってほしい。私の父が生前よく言っていたのが「良いものを適正な値段で」でした。原価を圧縮したくないというのが父の考えで、当社では原価率を高く設定しています。40年ほど前、印伝の業界は卸売が基本で小売はほとんどしていませんでしたが、父は百貨店などの物産展に出向き、直接商品を売りはじめました。今でこそ、職人が直接プロモーションをするのはスタンダードになりましたが、当時は周りから「それは職人ではなく商売人のすることだ」と非難されたこともあったそうです。ですが、父は直接お客さんの意見を聞き、それまで製品になかったさまざまな色を取り入れていきました。職人がつくりたいものではなく、お客様の声が反映されたことで、今の「印伝の山本」が形成されています。

遠藤:やはりつくり手の顔が見えることで安心感も得られますよね。そして適正な価格で製品を届けられる。山本さんならではの、唯一無二の製品がもっと広まるといいなと思います。

山本:伝統工芸の世界でも、もっとトレーサビリティ(流通)の部分を明確にしていけたらと思っています。消費者の手元に届くときには、誰がどこでつくったのかが曖昧になることが多いのです。たとえば漆の器が売られていたとしても、どういう種類の木で、漆の産地はどこで、漆職人は誰で、ろくろを回した人は誰かがわからない。それで値段は1万円と言われても適正かどうかもわかりません。私たちのつくるものでは、それらを明確化していけたらと思っています。山梨のどこの鹿で、何年にとれたものなのか、など知りたい人はいるのではないかと。情報を正直に伝えることで、製法も含めた背景を知ってもらうきっかけになりますし、購入したお客様自身が物に宿るストーリーの伝え手になってくれるかもしれません。

遠藤:ブランドの価値や定義も時代によって変わってきましたよね。昔はヨーロッパのハイブランドが価値だったかもしれませんが、いまは若者の好きなブランドにユニクロという名があがる時代。でもそれは企業努力だし、求められているものが変わってきたからなんですよね。スーパーに行くと、生産者が見える朝どれの野菜がブランドとして売られるように、誰がつくったかが見えることが新たな価値になると、私も思います。実現するハードルは低くはないかもしれませんが、ぜひその信念のまま進んでいただきたいですし、今日お話を伺ってお客様に「印伝の山本」の情報を伝えていきたいと率直に感じております。