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MUSUBU プロジェクト秘話

天然木を0.1mmに削る──「縫える木」が拓いた新しい時計表現

26-03-20

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天然桜の文字板を採用した「WOOD DIAL コレクション」。金属や樹脂が主流である腕時計の“顔”に、自然素材の温もりを持ち込んだこのコレクションの核となるのが、株式会社谷口が開発した「縫える木」だ。

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厚さわずか0.1mmで削り出した天然木に裏地を接着させた独自素材で、天然木でありながら、折り曲げたり縫製したりが可能に。バッグや小物などの他、衣服や壁紙、カーテンなど、さまざまな用途に展開できる可能性を持っている。

素材の開発には、およそ12年の歳月が費やされたという。どのような発想から生まれ、どのような試行錯誤を経て完成したのか。同社代表であり、「縫える木」の開発者でもある谷口正晴氏に話を聞いた。

削り屑から生まれた発想

「工場でカンナをかけると、薄い削り屑がヒュッと出てくるでしょう。あれを見て、これを何かに使えないかと思ったんです」

カンナをかけたときに出る薄い削り屑は、通常、加工工程の副産物として廃棄される。しかし谷口氏は、“屑”であってもそこに天然木特有の温もりや味わいが込められているのを感じていた。天然資源を無駄なく活用したいというサステナブルな思いや、経営者として求める利潤も踏まえつつ、「なにかに使えないか」という探究心が日々くすぶり続けたという。

「社内で話をすると、ほとんどの人が『社長、それは無理ですよ』と言いましたね。こんなものが商品になるわけがないと(笑)。それでも、もしかすると光を透かすような用途ならいけるんじゃないかと思って、最初はランプシェードを作ってみたんです。薄い木をまっすぐ貼れば光が透ける。そういう形なら可能性があるんじゃないかと思いました」

光が透けるほど薄い木とランプシェード

光が透けるほど薄い木

ランプシェード

ランプシェードの試作をきっかけに、谷口氏たちは木のシート素材の改良に取り組み始めた。薄い木材を曲げたり折り曲げたりできるようになれば、家具やインテリアだけでなく、ファッションや生活用品など、さまざまな分野で活用できるようになる。だが、その実現には大きな技術的ハードルがあった。

木質基材の表面に貼り付けて装飾する「突板」の場合、求められるのは最薄で0.2~0.3mmほど。しかしその厚さでは、曲げるとすぐに割れてしまう。さらに薄く削る必要があると考えたが、その想いを叶える機械は当時存在していなかった。

「機械屋さんに『もっと薄く削れる機械は作れませんか』と相談しても、『ありません』と断られました。でもカンナなら、0.1mmくらいの削り屑は出るわけです。それなら、機械でもできるはずだと考え、諦めませんでした」

既存の木工機械を改造し、刃物の角度や圧力、送り速度などを細かく調整しながら試作を重ねていった。刃物の強度を高めるために焼き入れを行い、素材が破れないよう加工条件を細かく調整するなど地道な改良が続けた結果、ついに最薄0.08mmの木材シートを安定して作る技術を確立する。

「ただ、それで終わりではありませんでした。ミシンで縫うと、穴があきますよね。そうすると、その穴から破れていってしまうんです。そこで不織布や麻などの裏地を接着剤で貼り付けました。それらの材料やバランスも重要で、例えば硬化しすぎる接着剤だと曲げたときに割れてしまいます。接着剤メーカーと一緒に安全基準を満たすものを開発し、ミシンで縫製できるような『縫える木』が完成したのです」

 

桜の魅力が沸き立つWOOD DIAL コレクション

この「縫える木」を用いて生まれたのが、KnotのWOOD DIAL コレクションだ。

文字板には天然の桜を使用。木材の厚さはわずか0.12mmで、そこに同程度の厚みの裏地が貼り付けられている。一般に用いられる木製文字板はもちろん、金属や樹脂のそれよりも薄いことから、ケースの薄型化や奥行き感のある表現が可能になった。

「桜の場合は、0.12mmくらいが一番安定する厚さ。比較的木目が均一に現れていることも特徴で、時計としての視認性を確保しつつ、天然木の味わいを感じ取れる素材だと思います。桜は日本人にも外国人にも人気のある木ですし、甘い香りがするのも特徴なんですよ。残念ながら時計の完成品からは香ってこないと思いますが(笑)、五感に訴えるものがあると思います」

そしてもちろん、淡いピンクの色合いや、天然木ならではの個体差も魅力だ。

「シルバーケースとはコントラストが引き立ちますし、ローズゴールドのケースとも相性がいいですよね。この時計(○年発売/限定モデル「○○」)、私自身も毎日着けていて、会う人に自慢していますよ(笑)」

 

「ここでしか実現しない」ニッチトップを目指す

株式会社谷口の創業は1947年。もともとは、囲碁の碁石を入れる器「碁笥(ごけ)」の製造で知られる木工メーカーだ。囲碁文化が広く親しまれていた時代から、同業界で大きなシェアを占めていたが、時代の変化とともに市場は徐々に縮小。かつては全国に80軒ほど存在した碁笥メーカーも、現在はわずか数社にまで減っているという。

二代目に当たる谷口氏は、大学では機械工学を学び、機械メーカー勤務を経て家業である株式会社谷口に入社。木工機械を自ら改造し、製造工程を見直しながら、新しい製品分野へと事業を広げていった。

「普通の木工会社は、板を仕入れて加工するという分業体制が多いんです。でも私たちは、丸太を買ってきて、製材して、加工して、塗装まで、全部自社でやります。そうすると試作が速いんですよ。外注すると半年とか1年かかることもありますが、自社でやればすぐに試せる。それが、新しい素材を開発するうえで大きな強みになりました」

現在、従業員数は12名。決して大規模な企業ではない。しかし谷口氏は、その規模だからこそできるものづくりがあると語る。

「私たちが目指しているのは“ニッチトップ”です。この木工業界において、大量生産で世界と競うことは難しい。小さくてもいいから、世界のどこにもない技術を持つ会社でありたいと思っています」

その考え方は、日々の仕事の姿勢にも表れている。顧客から「こんなものは作れないか」との相談が舞い込むと、無下に断ることはせず、どうすれば実現できるかを必ず考える。

「携帯電話の外装を木にできないかとか、車の内装に使えないかとか、いろんな話があります。無理難題と思えることでも、どうすればできるかを考え、試してみる。それがうちの考え方です。もちろん失敗もたくさんあります。でも、その失敗が次の技術につながるんですよ」

木製品は、古くから日本人の生活に寄り添ってきた素材だ。住宅、家具、道具など、生活のさまざまな場面で使われてきた。金属やプラスチックなどの人工素材に置き換わる場面が増えている現代でも、木製品ならではの魅力は失われないと谷口氏は語る。

「木というのは、目で味わい、触って楽しめる素材なんです。例えば部屋の中に木が一枚あるだけで、不思議と落ち着くでしょう。木は自然の素材であり、一本一本表情が違う。だからこそ、人はそれを見て心地よさを感じるんだと思います」

 

日本のものづくりと共創

谷口氏は、日本の伝統工芸の現状についても危惧を感じている。市場の縮小や後継者不足──多くの課題が指摘されているが、谷口氏はそこに別の問題もあると感じているという。

「今、伝統工芸は斜陽産業になっているところが多い。理由はさまざまですが、昔の栄光にしがみついてしまうことも原因になっているように思っています。変えてはいけないのは、昔の技術です。守るべき伝統はあります。しかし、デザインや用途は、時代に合わせて変えなければなりません。それをしないと、せっかくの技術が使われなくなってしまいます。ただの削り屑から始まった『縫える木』も、そうした姿勢から生み出されたものです」

その意味で、異なる分野の企業が共創することが重要だと考えている。

「一社だけで、新しいものはなかなか生まれません。よその技術と組み合わせることで、1+1が3になることもある。今回のような私どもとKnotさんとの取り組みも、そのひとつだと思っています」

WOOD DIAL コレクションも、そうした共創の中から生まれた製品だ。木工と時計という異業種の技術が組み合わさることで、新しい価値が生まれた。

「正直なところ、木が時計の文字盤になるとは思っていませんでした。でも“こういうものは作れませんか”と言われることで、新しい可能性が見えてくる。そういう出会いが、ものづくりには大事だと思います」

桜の温もりを宿したWOOD DIAL コレクション。その文字板には、12年にわたる試行錯誤と、木を知り尽くした職人の探究心が刻まれている。

 

【商品画像】

 

WOOD DIAL Collection ○○
—– ¥,(時計本体/税込)
—– ¥,(時計本体/税込)

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