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伝えたくなる時計の話

“スマートフィット”ブレスレット開発秘話

21-06-12

機械式プレミアムモデルのためだけに作られ、精密にケースにフィットするストラップ。あくまでリアルプライスにこだわりながら、プレミアムモデルに相応しい重厚感と、ケースに隙間なくフィットする美しいシェイプを追究しました。

しかし、「時計とストラップを着け替えられるKnot」が時計本体に美しくフィットする専用ストラップを作ることは、実は容易ではありませんでした。Knotのプロダクトデザイナー松村が完成に至るまでの道のりを語ります。


 


Knotの製品にはお客様の声をきっかけに生まれたものがありますが、いただいたご要望にお応えしたくても、課題があり製品に至らないこともあります。今回発売に漕ぎ着けたスマートフィットブレスレットも、構想から発売まで約3年ほどの月日がかかりました。

専門的な話になってしまうところもありますが、開発にあたり乗り越えた課題やこだわりのポイントをお伝えすることで、このスマートフィットブレスレットがより愛着をもってお使いいただければ幸いです。

 

 ”スマートフィット”とは?

従来のステンレスリンクではストラップと時計本体の間に隙間がありますが、スマートフィットブレスレットはケースとストラップが一体となるようなデザインとなっています。

一般的にケースと接する部分(エンドパーツ)がケースの丸みに沿っている形状のものは「弓カン」などと呼ばれます。ケースとエンドピースがフィットすることで、時計とブレスレットが滑らかに繋がり、腕時計として一体感がでて美しく、かっこよく感じられます。また、バネ棒(Knotではイージーレバー)のみで装着されているタイプに比べて、ケースとラグ※に接していることで強度が増すという面もあります。

Knotを愛用してくださっている方、特に機械式腕時計をご使用のお客様から、ケースにフィットするストラップを作って欲しいとのリクエストは度々いただいておりました。

Knotのストラップはどの時計とも着け替えられるという自由さを大切にしていますが、同時に腕時計の美しさを多くの方に知っていただきたいという思いもあり、自分も機械式腕時計に美しくフィットするストラップを実現したいと思っていました。でも、Knotだからこその困難がたくさんあったんです。

※ラグ… 時計本体にストラップやブレスレットを取り付ける部分。

Knotだからこその難しさ

ケースの「公差」

実現が困難な理由はいくつかありました。ひとつは「公差(こうさ)」の問題です。腕時計のケースには公差というサイズの個体差があるのですが、普通なら腕時計はその本体とストラップをセットした状態で販売するので、個体差があっても個々に噛み合わせを確認することができます。

しかしKnotは自由にストラップを替えられるのが前提です。モデルごとの専用ストラップとはいえ、時計本体とのセット販売のみという選択肢はありませんでした。そのため、公差内の下限あたりに合わせ、0.1ミリ以下のシビアなサイズコントロールが求められました。寸法管理が難しいため、この条件でご相談した工場で2つ立て続けに断られました。やっと1社、やってみましょうと言ってくださる工場があり、開発がスタートしました。

 

一般的には、ケース側にも条件がある

普通、腕時計はストラップ込みのコンプリートでデザインをしますので、腕時計のケースもエンドピースをつけるのに適したカタチにします。簡単に言うと、ストラップが稼働した際にエンドピースが浮いて格好が悪くなることを避けるための設計です。しかしKnotの機械式腕時計の本体はすでに製造販売されており、弓カンのようなエンドピースを想定した作りをしていませんでした。さまざま腕時計の構造を参考にしましたが全くうまくいかず、やっと道が開けたのはそれらの既成概念を一旦取り払い、独自の計算で固定パーツを作る方向に至ってからでした。とはいえその後もすんなりとはいかず、3Dプリンターを使いながらまた何度も試行錯誤をして、やっと今の構造に辿り着きました。

価格が高くなりすぎては意味がない

Knotの機械式腕時計(プレミアムシリーズ)は3モデル。ケース形状がそれぞれ異なります。それぞれに合ったものを作る必要がありますが、工夫しなければ価格が今の1.5倍かそれ以上になってしまう見込みでした。

手に取れる本格的な機械式時計を謳いながらブレスレットが高価というのでは、Knotのコンセプトに合いません。美しさとリアルプライスを目指すデザインの工夫が求められました。そこでエンドピース以外を3モデル共通にしようと考えました。一般的に量産する数量が少ないと高価になるため、共通パーツを用いることで価格を抑えようという狙いです。

しかし、ここで立ちはだかった壁が、ケース毎のラグ形状の違いです。エンドピースをラグ形状に合わせると、コマとの造形の違いがでて統一感がなく、美しくないのです。

この壁を解決するために、エンドピースの構造を見直しました。一般的にはエンドピースとラグの長さが同等で、バネ棒(Knotはイージーレバー)がエンドピースの端から端へと通っています。

スマートフィットブレスレットではエンドピースを短く、中央のコマのみにイージーレバーを通し、第1コマをラグの先端よりも内側に入れ込む構造にしました。そうすることで、エンドピースをラグ形状に合わせる必要がなくなり、コマ形状は共通、すなわち3モデル全てに合う共通パーツが成り立ちました。

その結果、美しさとリアルプライスを兼ね備えたデザインが実現できたと考えています。

 

美しさへのこだわり

エンドピースより後ろの3つ目までのコマが18mm幅から16mm幅へと徐々に狭くなっていきますが、これはテーパードシェイプにするための一般的な方法です。こだわりのポイントはこのコマの形状です。

スマートフィットブレスレットは、エンドピースから3つ目までのコマが時計本体の円弧が広がっていくようなカーブを描いています。円弧は中心(時計)から徐々に広がり、後半の水平なコマへとつながります。一般的にはエンドピースより後ろのコマは全て四角く均質ですが、より腕時計の美しさを際立たたせ、全体で調和がとれるデザインを施しました。

これは、どこにでもあるストラップではなく、もっと美しさを追求したものにしたいと考えを巡らせていたときに、日本庭園の石庭にある白砂の水紋からインスピレーションを得ました。さりげなくも普遍的な美しさを持つデザインを目指す、それがKnotらしさのひとつではないでしょうか。


 

終わりに

今回の開発秘話では普段あまり公にされることのない、設計・デザインの細部にまでクローズアップしてご紹介いたしました。全国のギャラリーショップでは6月12日(土)よりサンプル商品のご試着が可能です(近日発売予定)。ぜひお手に取ってご覧ください。

腕時計は日々の生活に、さりげなく寄りそうような存在です。さまざまな経験をお客様と一緒に過ごすこの小さな腕元のパートナーを、Knotはこれからも想いを込めて作り続けます。

 

LD-16 スマートフィットブレスレット
https://knot-designs.com/c/collection/strap/ld_16

 



こちらの記事に掲載されている価格は、2022年8月現在の情報です。
最新情報は Maker's Watch Knot 公式サイト をご覧ください。