来待瓦の元祖「亀谷窯業」が生んだ瓦食器
17-06-23
石州瓦の特徴を生かした耐熱、強度に優れた「直火用瓦食器」
火にかけた瓦の上に、そば!? これは島根県石見銀山の近く、浜田市で200年以上石州瓦を作り、製造技術を守り続けてきた亀谷窯業のプロダクト「直火用瓦食器」です。特徴は、そのユニークな見た目だけでなく、1000度以上の直火に耐えうる超耐熱と頑丈な強度を備えていること。凍害に強いといわれる石州瓦の特性をそのままに生かした、新ジャンルともいえる食器です。
この「瓦食器」は、亀谷窯業の亀谷典生氏が8年前に発明したプロダクト。瓦を知らない若い世代に、実際に触れて使うことで石州瓦の存在や魅力を知ってもらいたいという思いから誕生しました。3〜4年前から注目を集め、いまでは全国のさまざまな高級料亭や食にこだわる飲食店で使われるほど人気の商品に。種類は、通常のお皿として使用する「瓦食器」と、直火にもかけられる「直火用瓦食器」の2種。高温で焼成しているため、どちらも油や水分の吸収率が非常に低く、水洗いだけで充分きれいになる優れものです。食器としての安全性にもこだわり、鉛・カドミウムの溶出試験もクリアしています。
石見の街並みを赤く彩る来待瓦の歴史
石州瓦は1806年、石見国の浜田城を築城する際、摂津(大阪)から呼ばれた瓦師によってこの地に伝えられました。凍害に強い理由は、1200度以上の高温で焼成するため。焼き物は、高温で焼くほど土が締まり、強度が増していきます。石見地方では熱に強い粘土が採れたため高温焼成が可能で、強い瓦を作ることができたのです。そして、この粗い土に適していたのが、艶・発色にすぐれた天然の来待釉薬でした。
来待石を原料にした来待釉薬は高温で焼成することではじめて溶け出し、焼きあがると赤く発色します。強度を高めた結果、石州瓦の代名詞ともいえる赤色の来待瓦が誕生しました。
技術が進んだ現在は、赤い釉薬以外も使われていますが、昔ながらの赤瓦が葺かれた街並みは石見の原風景としていまも変わらずに受け継がれています。しかしコスト削減のため、天然釉薬の使用や高温焼成は倦厭され、低温でも赤の発色を促してくれる金属や化合物を使った石州瓦が増えているそうです。金属やプレートといった新しい屋根部材も登場し、瓦自体の需要も減少。昔ながらの良質な石州瓦製造は苦境に立たされています。
そんななか、亀谷窯業は、瓦の強度を維持するため、創業当時から石州瓦屋のなかでもっとも高い1300度もの高温焼成にこだわり、社員の健康面を考えて昔ながらの天然素材の粘土や釉薬を使用。現在では、来待釉薬を使う唯一の石州瓦屋となりました。また、他社と差別化を図るため、大量生産ではなく多品種製造を目指し、手作業によるオーダーメイドともいえる製造を行っています。
「弊社の企業価値は、高温焼成により昔と変わらない丈夫で良質な瓦を作ること。そして、来待瓦を愛する地元の方々に変わらない高品質の瓦を届け続けていくことです。建築業界でコスト削減の流れが進んでいますが、私たちはいいものづくりを実現するため、利益主義に走ることなく関わる人や会社にもきちんと利益を出してもらうよう努めています」
関連会社との信頼関係を築くことも、よいものづくりを目指す上で欠かせないことだと語る亀谷社長。瓦食器をはじめとした、新しい試みも石州瓦を守っていく上で重要なことだといいます。
「会社を存続させていくには、プロダクトの魅力をきちんと次世代に伝えていかなくてはなりません。いいものを作ったからといって、勝手に売れていくわけではないんです。瓦食器や瓦タイルなど、新しい分野にも挑戦してきたのもそうした理由から。挑戦をすると、本来の瓦の技術を高めるヒントもたくさん生まれてきます。石見の人たちが望む良質な石州瓦を届けるため、これからも挑戦を続けていきたいですね」
経営者として、瓦産業を支える牽引者として、高い志を持つ亀谷社長。亀谷窯業がある限り、これからも美しい来待瓦の文化が石見に受け継がれていくことでしょう。
こちらの記事に掲載されている価格は、2022年8月現在の情報です。
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