TOP > 伝えたくなる時計の話 > 腕時計は「見えない磁気」にご用心

伝えたくなる時計の話

腕時計は「見えない磁気」にご用心

17-06-30

ぶつけてない、落としてない、時計に強い衝撃を与えた覚えがない……のに、ある日突然、10秒も20秒も大幅に時間が狂い始めた……そんなときは、まず「磁気」を疑ったほうがいいかもしれません。時計店への修理依頼の上位に、最近は「磁気帯び」が常連になっているのです。

かつては航空機のコックピットや医療機器周辺など、磁気を帯びやすい場所は限られていました。しかし、パソコンを使いこなし、スマートフォンを携行するようになった現代人は、磁気に囲まれて生活しているようなもの。しかも、家電やデジタル機器の高性能化に伴って、内部の磁石は小型化しつつ、さらに強力になっています。

磁気を帯びてしまうと、時計は本来の動きができなくなります。とくに機械式時計はテンプのヒゲゼンマイが磁化すると、10秒単位で著しく精度がおかしくなったり、日によって精度がバラついたりする現象も。クォーツ式時計の内部電子機器やモーターにも悪影響を与え、強い磁気を受けると針が何秒か瞬時にズレることもあります。

一度帯磁してしまうと、磁気は自然に消えることはないので、時計ショップや修理工房に行って「磁気抜き」してもらわないといけません。プロが持っている磁気抜き器は、簡単にいうと、強い磁気を発生して時計の磁気もいっしょに連れて行ってしまう装置。よほど酷い帯磁でなければ、磁気抜きの作業自体は難しくないので安心してください。

磁気帯びを防ぐには、磁気発生物に近づけないこと。磁力は距離の二乗に反比例するので、少しでも離せば急激に磁力の影響は弱まります。スマートフォンと5cm離すだけでも大丈夫。密着させるのが最も危険です。

代表的な磁気発生物はといえば、先ほどから名前が挙がっているスマートフォンとパソコン。これらはスピーカー部の磁力がとくに強いので要注意。バッグの中にスマホと時計をいっしょに入れるのは要注意。同じく高音質スピーカーを備えたAV機器の上に時計を置くのも止めましょう。

電子レンジやIH調理器も磁力を利用して加熱しているので、時計を近くに置くのはかなり危険。キッチン回りでは冷蔵庫のドア、あるいは日頃持ち歩いているバッグの留め金にセットされた強力なマグネットにも注意しましょう。冷蔵庫やバッグから何かを出し入れするたびに、腕の時計は磁気の危険にさらされているのです。また、エレベーターの壁マットにもたれ掛かっていると、背面の貼り付け用マグネットから磁気を受けている可能性があります。満員電車の中で腕時計が隣人のバッグのマグネットにくっついて……など、気づかないうちに磁気発生物と密着させていることもありえます。

ちなみに、帯磁したかどうかをチェックしたいなら、コンパス(方位磁石)を用意してください。時計(金属)に近づけると、方位針は少し微動するものですが、大きく針が触れるようなら、残念ながらそれは磁気帯している証拠です。

磁気は目に見えません。だからこそ、くれぐれもご用心を!

プロフィール 大野高広
出版社を経て、編集プロダクション「オフィスペロポー」主宰。雑誌・書籍・広告の制作を行いつつ、15年以上にわたりスイス時計フェアの取材を重ね、時計ジャーナリストとして専門誌・一般誌に執筆中。