Knotが刻むひとときと文筆調香の関係性

24-02-21

文筆調香家文香ヒロ

2024年2月22日に発売されたSeason Collection第9弾「蘖（ひこばえ）」。今回のSeason Collectionにおいては蘖の世界観を言葉と香りで表現をする「文筆調香」という新たな取り組みを行いました。Knotの商品を言語化・香り化する過程で見えてきた時計と文筆調香の関係性を文筆調香家の文香ヒロさんに伺います。

数量限定モデル「蘖(ひこばえ )」

「文筆調香」という新たなコミュニケーション

「文筆調香」とはブランドや商品の価値を言語化し、その言葉を香りで表現する新たなコミュニケーションです。私はもともとコピーライターとして言葉を紡ぐことで人と商品との関係性を作る仕事をしてました。言い換えるとそれは「視覚」や「聴覚」でのコミュニケーションになります。そこに「嗅覚」からのアプローチを加えることで、言葉で理解したことを香りで記憶に残せる体験を実現しています。言葉だけ、もしくは香りだけでのアプローチは今までもありますが、言葉だけだと記憶に残りづらく香りだけだと抽象的で何を意味しているのかがよくわからないものです。文筆調香は言葉と香りで具体と抽象の両方を提供することでブランドや商品の世界観を届けやすくしています。

蘖を象徴する言葉と香り

今回、KnotさんとSeason Collection第9弾「蘖（ひこばえ）」の文筆調香を作る上で大事にしたことは大きく二つあります。一つはKnotというブランドの「らしさ」を紐解き、中核となる香り（Scent Identity®︎）を定めること。二つ目は、蘖という商品を体現した言葉と香りを作り、それをKnotの中核となる香りと融合させることです。

Knotらしさは机上で考えているだけで見えてくるものではありません。実際に店舗へ赴くことはもちろん、社員の方々へのインタビューを重ねることで共通したイメージやワードをあぶり出していきます。それらを香りに置き換えたときにどんな香りなのかということを実際に数十種類の天然香料の中から選定し、Knotらしい香りの要素を整理していきました。

▲Knotらしさを表現する香りの方向性

加えて今回は蘖という商品を象徴する文筆調香に仕上げるために、蘖とは何か？実際に桜の木部を使用した時計が持つ価値は？この商品を手首に纏うときにもたらされる感情は？といった観点で文筆を書いては消し、書いては消していきます。そして、最後に芽吹いた言葉の端々から香る香気を嗅ぎ分けて香料を選ぶ。Knotらしさを象徴する香りと併せて計13種類の天然香料を調合することで蘖の香りを創り上げています。このプロセスをKnotの皆さんと共に約2ヶ月間で駆け抜けていきました。

香り作りにおける時間の重要性

蘖の香りを生み出す上で、香りと時間の関係性は切っても切り離せません。調合した香りは様々な香料をブレンドしているため、時間が経つと最初と違った香りに感じられます。そのため、どれくらいの時間が経つと香りがどのように変化をしていくかという点も念入りに確認しながらブレンドの設計をしていきます。

今回の蘖の設計においても香料を紙につけた時刻を記録し、数分、数十分、数時間…と時間が経ったタイミングで香りを確認していきました。トップノートと言われる第一印象の香りはKnotブランド自体を象徴するようなニュートラルでフレッシュな香りです。それらはポジティブな印象と何かが始まる予感をもたらします。しばらくすると落ち着いた木々の香りがミドルノートで顔を出し、ベースノートでは桜や葉っぱの華やかな甘さが門出を祝います。一分一秒を刻む時計の針は、見えない香りの変化を教えてくれる存在なのです。

文筆調香を支えるリストウェアという存在

言葉や香りを創る行為は、いわば日々蓄えてきた感性をアウトプットするようなものです。しかしながらスムーズに感性を形にできず、夜中に天井を仰いだりすることもしばしば。なるべく自分のクリエイションをスムーズにするために、常に忙しく動いている手元には見ているだけで気持ちが上がるゴールドのトノーウォッチとゴールドの指輪で固めます。もちろん、香りの変化を測るための時計でもありますが、私にとっては内なる感性と指先とを一直線に結ぶための「媒介」としての役割を果たしています。