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伝えたくなる時計の話

LOWERCASE×Knot THE STRAP コラボストラップ ファッション視点で“フラストレーション”を解消

25-12-01

国内外のさまざまなメーカーやブランドと手を組み、数多くの洗練されたモノ&コトを生み出してきた「LOWERCASE」主宰の梶原由景氏。常に時代に一歩先を読み解いてきた創造性はストラップ専門ブランド Knot THE STRAPへと注がれ、待望のコラボレーションが実現した。Knotの遠藤弘満代表との対談の中で、梶原氏が今作に秘めた想いをひもといていく。 

 

“異業種コラボ”の先駆けとして時代を牽引

遠藤:このたびは梶原さんの『LOWERCASE』とコラボさせていただくことになり、とてもうれしく感じています。梶原さんといえばビームス在籍時代から数多くのプロジェクトを手掛けられ、異業種コラボレーションの草分けとしてこの業界で知らぬ者はいない存在です。

梶原:ファッションアイテムや家電、ホテルなど形になるもののほかにも、ブランドや飲食業のプロデュースも手掛けてきました。

遠藤:本当に幅広い領域でクリエイティビティを発揮されていますよね。それも、随分と前から。

梶原:かつては旧電電公社がNTTになった頃、同社が保有していたPHS技術の商用化に協力しましたし、当時は日本市場にほとんど製品が出回っていなかったモトローラの電話機にアイコニックなカモフラ柄を施したコラボ品を作ったりもしました。

遠藤:梶原さんが、今でいう“異業種コラボ”を生み出した先駆けなのだと思います。

梶原:ソニーとはウォークマン20周年の記念コラボもやりましたし、その後は一緒にホテルを作ることにもなりました。iモード全盛期には、KDDIと協力してルイ・ヴィトンのケータイ向け公式サイトの開発をプロデュースし、記録的なアクセス数を獲得したことも。僕でもコードを書けるぐらいの単純なサイトで、自力でライティングしたんですよ。

遠藤:インターネット黎明期から、その可能性にいち早く気づかれていたわけですね。

梶原:ビームスのホームページを立ち上げたのも僕なんです。『これからインターネットの時代が到来するのに、対応しないのはおかしい』と社長に直談判したところ、『それならやってみれば』といわれて。ファッションだけでなく、新しいテクノロジーにも興味があったので。

遠藤:独立されてからも、梶原さんが手掛ける“異業種コラボ”はますます勢いを増しています。コラボのオファーが止まない理由を、ご自身としてはどう分析されていますか?

梶原:確かなところはわかりませんけど、『あいつに聞けばなにかわかるんじゃない?』と思ってくれているのだと。独立後もファッション業界の最前線にいる方々との関係は続いていますし、影響力のあるメディアで積極的に情報発信し続けてきたことも、認知を広げられたのだと思います。

遠藤:そして手掛けられたコラボの中には、時計もあったと聞いています。もともと時計はお詳しかったんですか?

梶原:いえ、それがまったく。ごく一部の超高級ブランドやカジュアルウォッチを知っていたくらいで。『なんで僕に声が掛かったんかな?』と疑問も感じたのですが(笑)、頼まれたからには応えようと決意し、その案件で受け取る報酬全額を使って高級時計を何本も購入して、実際に身につけてよさを理解しました。

遠藤:まさに身を削って、時計の世界を体感されたわけですね。

梶原:はい。そのおかげか、コラボは異例のヒットを記録することになりました。

 

嗜好性の高いジャンルが向かう“ラーメン化”

遠藤:梶原さんはさまざまなプロダクトを手掛けてこられましたが、その中でも時計について、その実用性や趣味性、価値をどう捉えていますか?

梶原:僕にとってはラーメンみたいな存在です。本質的には時間がわかればいいモノなのに、細かいこと言う人がいっぱいいるじゃないですか(笑)。ラーメンだって普通に食べればいいのに、スープがどうだとか麺の太さがどうだとか。時計の世界も似たようなところがあるなと思っていて。

遠藤:初めて聞く喩えで驚きました(笑)。でも、確かにおっしゃるとおりかもしれませんね。

梶原:男の趣味って必ず“ラーメン化”していくんですよ。バイクやサウナもそう。どんどんローカルルールができて、仲間内での共有を楽しむ。僕は黙って食べたい派だから、そういうのはちょっとめんどくさく感じてしまうのですけども(笑)

遠藤:でも、そういう“うるさい世界”があるのも時計の奥深さですよね。みんな語りたいし、こだわりたいから、“文化”が生まれる。

梶原:そうです。語りたくなる気持ちはわかりますよ。クリエイティブの中でも特に難しいのが、そうした嗜好性の高いジャンル。ある人にとってはダメでも、別の人にとってはすごいいい、というのが往々にしてありうる世界なので。

遠藤:今回は私たちとコラボしていただきましたが、Maker’s Watch Knotについてはどのように認識していましたか?

梶原:表参道をはじめ、至るところにショップがありますから、ずっと気になっていました。シンプルなフェイスデザインで、わりとアノニマスな感じに仕上げることで、ストラップを付け替える楽しみを発生させている時計なんだと感じていました。

遠藤:まさにその通りです。僕は長らく輸入時計のビジネスをやっていて、販売店から『この時計、ストラップが違えばもっと売れるのに』なんて言われることも多かったんですね。特にファッション性を訴求する数万円台のカジュアルウォッチだからこそ、コーディネートできることが大切なのだと気付かされたんです。

梶原:時計も服の一部ですもんね。

遠藤:Vゾーンに合わせるシャツとネクタイみたいなもので、時計とストラップがずっと同じっておかしい気がして。だから僕らは、すべて別売にして自由にカスタマイズできるようにしました。ストラップだけでも購入しやすいですし、ストラップを揃えるとまた別の時計も欲しくなるじゃないですか。楽しみも増えます。

梶原:いい考え方だと思います。

遠藤:だからKnotの時計は“付け替えが前提”なんです。時計のフェイスはシンプルで、ストラップで個性を出す。服を着替えるみたいに、時計も着替えてほしいんです。

梶原:なるほど。だから、あのミニマルなフェイスなんですね。

遠藤:売り方にも工夫しました。時計店といえば、ガラスのケースの中に商品が陳列され、スタッフの接客を受けて試着したり購入したりが常識。でも、オンラインによる売買が増えている今、特に若い方だと接客を苦手とする人は多いですし、試着くらいまでは一人でできる環境が必要だと思ったんです。だから、店舗では時計やストラップを自由に手に取れるよう用意し、カスタムを楽しめるようにしています。

梶原:コーディネートというところを、こんなにも面倒を見てくれる時計ブランドって他にありませんよ。僕も、既存のストラップを自分好みのものに替えることはありますが、ここまで多角的に提案してくれるというのは。

遠藤:ありがとうございます。またKnotの根っこには、“メイド・イン・ジャパンで世界を結ぶ”という考え方があります。でも、ただ『日本製です』だけじゃ意味がなくて、職人の顔が見えるモノづくりをしています。京都の組紐や、広島のカイハラデニム、漆塗りの時計──どれも、その土地の技術と一緒にやってきた技術や文化を活かしているんです。

梶原:それは、本当に価値のあることだと思います。洋服に関していえばどんどんと生産地が海外に渡り、はたと気づけば日本のいいモノがなくなっている。吊り編み機とか、シャトル織機とか、もう残ってないところも多いですよね。

遠藤:古い織機をニコイチで動かしていて、それが故障したらもう作れなくなる、といった話をよく耳にします。

梶原:日本のモノづくりって、ギリギリのところにあります。

遠藤:はい。一度なくなってしまったものをゼロから復活させるのは大変ですから、今ある日本のモノづくりをできるだけ多く残したくて、そうした想いからも日本の企業と一緒に仕事し続けているんです。

梶原:大事なことだと思います。

 

常識の枠組みの外から自由に発想していく

遠藤:そして今回は、ストラップ専門ブランド Knot THE STRAPにて、梶原さんとコラボさせてもらいました。そもそもこのブランドは、Knotで培ったストラップ作りのノウハウを高級時計にも活かせるようはじめたのですが、Apple Watchブームにも重なったため同製品にも使えるアダプタも用意したところ、大反響を得まして。現在、ユーザーの6~7割はApple Watchで使用されているようです。

梶原:純正のApple Watch用ストラップには、僕もフラストレーションを感じていました。シリコンはスポーツにはいいけど、普段の服には合わない。エルメスのストラップも買いましたけど、結局“普通の革ストラップ”ですし、もう少し気の利いたものが欲しいと思っていたんです。

遠藤:僕たちは時計屋なので、ストラップブランドとして名を広めるにはもっとファッションのスパイスを強めたいと考え、梶原さんの創造力やアイデアに頼れないかと思い至ったんです。

梶原:僕はなんでもそうなんですけど、“自分の欲しいモノを実現したい”というのが大きなモチベーション。個人的にも、理想的なApple Watch用ストラップが欲しいと思っていましたので、今回の話はすごく面白いと思いました。

遠藤:ありがとうございます。そうして『NATOデザイン×防水レザー』『防水・撥水・透湿三層素材 3Dレイヤー生地』『COOLMAX×遮熱生地』という3タイプのストラップが誕生しました。どれもこれまでの発想では生まれなかった、すばらしいコラボだと感じています。

梶原:先ほど遠藤社長がおっしゃられていた“時計の常識”にも関連するのですけど、一定の品質を担保しようとすると、常識の枠組み内に留まろうとする力が働くんです。でも僕は時計の人間じゃないから、『この素材でパッと縫製すればいいんじゃない?』というように自由に発想できる。

遠藤:梶原さんの発想力の高さをものすごく実感しました。確かに、僕たちではたどり着けないものだったと思います。

梶原:もちろん製品化にあたっては、『芯材を入れたほうが見栄えがよく見える』『もう少し厚みがあったほうが生産しやすい』など、その道のプロであるKnotさんの知見もいただいて。全体の品質も高まり、落とし所として理想的なところに収まったと思います。

遠藤:そうですね。梶原さんのアイデアと我々のノウハウをうまく掛け合わせ、よいコラボになったと感じています。

 

独自のスタイルを求めるApple Watchユーザーに

遠藤:各コラボ製品について、具体的に伺わせてください。最初に出たアイデアが『NATOデザイン×防水レザー』でしたよね。

梶原:はい。第一に、僕がNATOストラップ好きというのがありまして。多くの男性もそうだと思うのですが、ミリタリーモノが好きなので。それをどうやって展開しようかとイメージを膨らませていきました。

遠藤:NATOストラップというと1本で引き通しになったものや、一部が二重になっているのが一般的ですが、それだと裏蓋のセンサーを覆ってしまい、正しく機能しなくなってしまいます。

梶原:そうなんです。だからセパレート仕様にならざるを得ないんですが、時計本体に近い“カン元”には芯材を入れ、引き通しになっているような一体感を生み出しました。

遠藤:その一方で全体では芯材を抜き、剣先を折り返して定環に収められるというNATOストラップらしいディテールも取り込んでいます。

梶原:はい。あと、スコッチガードを含浸させた防水レザーを素材にしたのもポイントで、汗や汚れを気にせずに使えるという実用性もミリタリーに通じるところがあると考えています。

遠藤:いいですね。他2製品、『防水・撥水・透湿三層素材 3Dレイヤー生地』『COOLMAX×遮熱生地』にも驚かされました。3Dレイヤー生地にCOOLMAXと、およそ時計業界では耳にしない素材が使われています。

梶原:ファッションの文脈で時計を見たかったんですよね。だから、3Dレイヤー生地やCOOLMAXを使ってみました。いい生地があるんだから、時計のストラップに使ったらいんじゃない?というシンプルな発想です。

遠藤:なるほど。

梶原:3Dレイヤーは防水性・撥水性・透湿性があって着用感に優れ、自分で洗うことも可能です。COOLMAXモデルは蒸発時の気化熱の効果で涼しい着け心地を維持しますし、表地は遮熱性も備えていて、特に夏場にぴったりなんです。

遠藤:どちらのストラップも表裏の両方が生地の仕立てで、これはブランド初の試み。開発には非常に苦労しました。それに、バックルのつく棒を通す穴の部分に打っているハトメを、表裏逆に設置したのも初めてのことでした。

梶原:できるだけ目立たせたくなかったんですよ。それで、面積が小さく見えるハトメの裏側をストラップの表側に持ってくることしました。

遠藤:メーカー側からすると、面積の大きな側が表だとされているので、それが当たり前だとばかり……逆にしても機能的な問題はないわけですから、その発想は目からウロコでした。

梶原:そこも、“常識”の枠にとらわれないディテールといえるかもしれませんね。

遠藤:そしてこれらコラボモデルは、ユナイテッドアローズの丸の内店と新宿店で先行販売を展開することになりました。

梶原:ユナイテッドアローズの担当者もこのストラップを気にいってくれていましたし、同店に通うお客さんにもすごく刺さるんじゃないかと思います。

遠藤:ジャケパンにも合わせやすいですし、他にはない独自のスタイルもありますよね。

梶原:はい。Apple Watchユーザーが広がる一方で、従来のストラップに対してフラストレーションを抱えていた人は多いと思うんです。今回のコラボはいいところに落とせたかなと感じていますので、ぜひ使ってみてほしいですね。

 

梶原由景 / LOWERCASE代表

LOWERCASE代表。元BEAMSクリエイティブディレクター。ソニーとのデザインホテル・プロジェクトを行うなどファッション界における異業種コラボレーションの草分けとして知られる。またルイ・ヴィトンとKDDIのモバイルコンテンツを手掛けるなどデジタル、デザインからアパレルまで幅広い業界にクライアントを持つ。藤原ヒロシ氏とコンテンツサイトRing of Colourを立ち上げ情報発信中。http://ringofcolour.com/

 

 



こちらの記事に掲載されている価格は、2022年8月現在の情報です。
最新情報は Maker's Watch Knot 公式サイト をご覧ください。